最高裁判決後の米国関税の動向
国際税務ニュースレター米連邦最高裁判所は2026年2月20日、国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠とするトランプ政権の追加関税(IEEPA関税)を違法と判断しました。これを受けて米国際貿易裁判所は2026年3月4日、米税関・国境取締局に対し、IEEPA関税の還付を命じました。 本稿では、IEEPA関税の発動から還付に至るまでの経緯を整理し、還付のプロセスおよびIEEPA関税の代替措置について解説します。
2026/05/07 読了時間 6 分

日本では、居住者がその年の12月31日時点において合計5,000万円を超える国外財産(預金、株式、不動産など)を保有している場合、その財産の種類、所在地、価額等を記載した「国外財産調書」を税務署に提出することが義務付けられています。この制度は、海外資産の保有状況を適切に把握することにより、国際的な資産保有に伴う課税漏れを防止し、適正な課税の確保を図ることを目的としています。
このような海外資産の申告制度は日本に限らず、多くの国で導入されています。近年は各国税務当局間の情報交換体制(CRS等)の整備が進み、海外資産に関する税務コンプライアンスの重要性は世界的に高まっています。特に、国際的な資産移動の拡大や金融取引のグローバル化を背景として、海外資産の把握を通じた適正な課税を確保する観点から、多くの国において同様の制度が導入されています。
インドは近年著しい経済発展を遂げており、日系企業の進出も増加しています。今後も日本から多くの駐在員が派遣されることが見込まれることから、本ニュースレターでは、インドにおける海外資産の申告制度について取り上げます。具体的には、対象となる納税者、申告対象となる資産の範囲、申告制度の概要、申告情報の裏付けとなる制度、申告を怠った場合の罰則について解説します。
インドの海外資産申告制度(Foreign Asset Reporting)は、インドの所得税法において「居住者(Resident)」と判定される個人納税者を主な対象としています。具体的には、インドの所得税上の居住者のうち、通常居住者(Resident and Ordinarily Resident:ROR)に該当する個人は、海外に保有する銀行口座、株式、不動産、信託持分などの資産について、所得税申告書(ITR)の Schedule FA(Foreign Assets) において申告する義務があります。一方で、非居住者(Non-Resident:NR)および非通常居住者(Resident but Not Ordinarily Resident:RNOR)は、原則として海外資産の申告義務の対象とはなりません。
したがって、インドの海外資産申告制度は、インド税務上の居住者のうち、通常居住者に該当する個人が海外資産を保有している場合に申告義務が生じる制度となっています。
駐在員の場合、インドでの居住期間が一定日数を超過(駐在開始後、概ね駐在3年目)すると通常居住者(Resident and Ordinarily Resident:ROR)に該当することとなり、海外資産申告義務が発生します。
インドの海外資産申告制度では、所得税申告書(ITR)の Schedule FA(Foreign Assets) において、通常居住者(Resident and Ordinarily Resident:ROR)が保有する以下のような海外資産等を申告する必要があります。
① 海外の銀行口座
② 海外の金融資産(株式、債券及び債権、投資信託等)
③ 海外の事業体への出資および持分等
④ 海外の不動産
⑤ 海外の信託に関する持分
このように、インドの海外資産申告制度では、海外に保有する幅広い金融資産・不動産・持分等が対象となり、本人が直接保有している資産だけでなく、権限を有する口座なども申告対象となる点が特徴です。また、金融資産については対象となる商品範囲が広く解釈される可能性があるため、留意が必要です。例えば、日本の確定拠出年金(DC)、持株会、ストックオプション等についても、申告対象となる海外の金融資産として取り扱われるものと考えられます。これらの資産は駐在員が申告対象として認識していないケースも多く、見落としやすい項目の一つといえます。
インドの海外資産申告制度は、所得税申告書(Income Tax Return:ITR)の中で申告する仕組みとなっており、所得税の申告とは独立した申告書を提出する日本の国外財産調書とは制度設計が異なります。主な制度の概要は以下のとおりです。
海外資産は、所得税申告書(ITR)に含まれる Schedule FA(Foreign Assets) において申告します。ここでは、海外の銀行口座、株式、持分、不動産、信託持分、権限を有する口座などについて、金融機関名、所在地、取得価額、期中の最高残高などの情報を記載します。また、海外資産から生じた所得についてはSchedule FSI(Foreign Source Income)等で申告します。
海外資産の申告は、通常の所得税申告と同時に行います。個人納税者(監査対象でない場合)の場合、原則として課税年度終了後の9月15日が申告期限となります。なお、実務上は政府により期限が延長されることもあります。
Schedule FAでは、通常の所得税申告と異なり、前年の暦年(1月1日~12月31日)時点の海外資産の状況を基準として報告する点が特徴です。
インドの Schedule FA(Foreign Assets)における海外資産申告には、日本の国外財産調書のような「最低金額基準」は設けられていません。したがって、税務上の居住者(特に Resident and Ordinarily Resident:ROR)に該当する場合には、金額の大小にかかわらず海外資産を申告する必要があります。
このように、インドでは所得税申告書の一部として海外資産を申告する仕組みとなっており、通常居住者に該当する場合には幅広い海外資産について報告が求められる点が特徴です。
インドにおける海外資産申告制度は、近年強化されている国際的な税務情報交換の枠組みとも密接に関係しています。その代表的な制度が、共通報告基準(Common Reporting Standard:CRS)です。CRSは、各国の金融機関が非居住者の金融口座情報を税務当局へ報告し、その情報を税務当局間で自動的に交換する制度です。OECD主導のもと世界100か国以上が参加しています。インドおよび日本もこの制度に参加しており、各国の税務当局は金融口座情報の自動交換を行っています。
この制度の下では、例えばインドの税務上の居住者が日本の銀行口座や証券口座を保有している場合、日本の金融機関が当該口座情報を日本の税務当局へ報告し、情報がCRSの枠組みを通じてインドの税務当局へ自動的に共有される仕組みとなっています。したがって、海外資産を申告していない場合であっても、CRSによる情報交換を通じて税務当局が当該情報を把握する可能性があります。
このように、海外資産の情報は国際的な情報交換により各国税務当局に共有される仕組みが整備されつつあるため、インドの海外資産申告制度(Schedule FA)においても、海外口座や証券口座などの資産について適切に申告することが重要となっています。特に、日本からの駐在員の場合、日本国内の銀行口座や証券口座、年金資産などを保有したままインドの税務上の居住者となるケースが多いため、CRSによる情報交換の存在も踏まえ、申告漏れが生じないよう留意する必要があります。
インドの税務上の居住者(特に Resident and Ordinarily Resident:ROR)は、所得税申告書(ITR)の Schedule FA(Foreign Assets) において海外資産の内容を申告する義務があります。この申告を行わなかった場合や誤った内容を申告した場合には、Black Money (Undisclosed Foreign Income and Assets) and Imposition of Tax Act,2015に基づき、厳格な罰則が適用される可能性があります。
具体的には、海外資産の未申告や誤申告があった場合には100万ルピーの罰金が課される可能性があり、この罰金は当該資産から所得が発生していない場合であっても、申告義務を怠ったと判断されれば課される可能性があります。さらに、海外に保有する所得や資産が 「未申告の海外所得・海外資産(Undisclosed Foreign Income and Assets)」と認定された場合には、当該所得等に対して30%の税金が課されるとともに、税額の最大3倍(所得に対して最大90%)のペナルティが課される可能性があります。
海外資産や海外所得を意図的に隠匿していたと判断された場合には、3年から10年の懲役刑および罰金が科される可能性があります。また、所得税申告書のSchedule FAにおいて海外資産を開示しなかった場合や虚偽の情報を申告した場合には、6か月から7年の懲役刑および罰金が科される可能性があります。さらに、海外資産を保有しているにもかかわらず所得税申告書自体を提出していない場合にも、6か月から7年の懲役刑が科される可能性があるとされています。
海外資産の未申告が重大な脱税事案として調査や刑事手続の対象となった場合には、前述の税務上・刑事上の罰則に加えて、実務上の制限が生じる可能性があります。例えば、捜査機関等によりLook Out Circular(LOC)が発行された場合には、空港での出国が制限される可能性があります。また、刑事手続が進行している場合には、裁判所の命令によりパスポートの提出や出国制限が課されることもあります。さらに、外国人の場合、重大な法令違反と判断された場合には、VISAの更新が認められない、またはVISAが取り消されるといった影響が生じる可能性も否定できません。このように、海外資産の未申告は税務上のペナルティにとどまらず、実務上の不利益につながる可能性もあるため、海外資産については適切に把握し、所得税申告書において漏れなく申告することが重要です。
このように、インドにおける海外資産の申告義務に関する罰則は比較的厳格であり、申告漏れが重大なペナルティにつながる可能性があります。海外の銀行口座や証券口座だけでなく、日本の確定拠出年金(DC)、持株会、ストックオプション等も含めて、保有する資産の内容を適切に把握したうえで、所得税申告書において漏れなく申告することが重要です。特に、日本からの駐在員の場合、日本側の金融資産や年金資産を保有したままインドの税務上の居住者に該当するケースが多いため、制度を十分に理解し、申告漏れが生じないよう注意する必要があります。
海外勤務者においては、日本および赴任国双方での税務コンプライアンスを適切に確保することが重要です。特に海外資産の申告制度は、近年各国で整備・強化が進められており、各国税務当局間の情報交換制度(CRS等)の拡大により、海外金融口座や証券口座の情報を税務当局が把握している可能性が高まっています。
そのため、海外資産の申告漏れは単なる申告ミスとして扱われない場合もあり、税務上のペナルティや刑事責任につながる可能性があります。日本からの駐在員の場合、日本の銀行口座、証券口座、確定拠出年金、企業年金などの金融資産を保有したままインドの税務上の居住者に該当するケースが多く見られます。これらの資産は本人が申告対象として認識していないことも少なくありません。
そのため、赴任前後の段階で海外資産の内容を整理し、インドの所得税申告書において適切に申告を行うことが重要です。企業側においても、駐在員の税務コンプライアンスを確保する観点から、本制度について理解を深めておくことが望まれます。
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