
2025年9月12日、リヒテンシュタイン財団を通じて外国法人の株式を保有するとみられる場合にCFC税制の適用を認めることとする判決が東京地裁にて出ました。こちらの判決については一般メディアでも報道されており[1]、外国の事業体を通じたタックスプランニングに対する影響が注目されるところです。
タックスヘイブン対策税制(CFC税制)とは
居住者や内国法人が、法人税率が低い又は法人税がない国に所在している一定の外国法人(特定外国子会社等[2])の株式等を保有している場合、当該外国法人の所得のうち当該保有株式等に対応する部分について、当該居住者又は内国法人の収入金額又は収益の額とみなされ、日本における課税に服することとなります。これをタックスヘイブン対策税制(CFC税制[3])といいます。
これは、他の外国法人の株式を保有することを通じて特定外国子会社等の株式等を保有している場合(間接保有)にも適用されますが、今回問題となったのは、リヒテンシュタイン法を根拠法として設立された財団を通じて特定外国子会社等の株式等の全てを保有しているとみられる場合にもCFC税制が適用されるか否かでした。
居住者である原告Xの主張の要旨は、当該財団の根拠法には持分(株式)に関する定めがないため、特定外国子会社等の株式等を保有しているとはいえず、当該税制の適用対象にはならない、というものでした。対して、被告である国(税務署長)の主張の要旨は、そのような場合でも、定款等の定めなど具体的事情により、実質的に特定外国子会社等の株式等を保有していると認められる場合には、当該税制の適用対象になる、というものでした。
事実の概要
1. 本件財団定款等[4]の記載等
① Xの承認した草案に基づき、本件財団の定款、規則及び付属定款を制定すること。
② 本件財団の資本金(Stiftungskapital[5])は3万スイスフランであり、Xは、同額を本件財団宛てに送金することを約する。
③ Xは、第一受益者として、同人の生涯にわたり、他のいかなる受益者をも排除し、本件財団の資産及びその収入を享受する権利を単独で有するものとする。
④ 本件財団の組織は、財団評議会及び代表者とし、本件財団の資産に関して設立者が独自に設けた組織が存在する場合、本件財団の資産の管理については、この組織が単独で責任を負う。また、Xを財団の資産管理を行う特別組織に指名する。X以外の構成員は存在しない。
⑤ 財団評議会は、その義務の履行においてXによる指導を受け、本件財団の管理運営を行い、外部に対し法的拘束力をもって本件財団を代表する。
2. 本件財団に関する具体的事実
① Xは、2005年に、訴外A社に対し、本件財団定款等により、リヒテンシュタイン会社法に基づき同国に本件財団を設立するように指示し、A社を信託設立者として本件財団が設立された。
② Xは1.②に基づき、本件財団に対し3万スイスフランを払い込んだ。
判旨(請求棄却・原告敗訴)
1. 制度の趣旨
措法40条の4(筆者注:居住者に関するCFC税制の根拠)の趣旨は、居住者が軽課税国に所在する外国法人に対する資本関係を通じた経済実質的な支配力を利用して租税負担を不当に軽減することへ対処することであり、同条は、外国法人の発行済株式等のうちに占める、居住者が直接・間接に保有する株式等の割合が過半であることを、上記の資本関係を通じた経済実質的な支配力を判定するための基準としている。
2. 判断枠組み
上記趣旨からすれば、その支配力の有無は、形式上、名目上のものではなく、外国法人の収益や資産を実質的に支配しうる地位の有無という観点から判定されなければならず、居住者がこのような法的地位を取得しているか否かについては、当該外国法人の根拠法だけでなく、当該外国法人の定款や会社規則等の具体的事情を総合的に考慮して判定すべきである。そして、そのような法的地位は、当該外国法人に対して資金を拠出したことによって得られた、自益権及び共益権又はこれらと同視できる権利等をいうものと解すべきである。
3. あてはめ
1) 本件財団の設立及びXによる資本金の拠出
事実1.①②、2.①②などに照らすと、本件財団の実質的な設立者はXであって、Xが、本件財団の実質的な設立者として、その資本金を単独で拠出したものと認められる。
2) 自益権と同視できる権利ないし地位の有無
本件財団の根拠法において、財団における「受益者」とは、財団から経済的利益を享受し又は享受しうる者であるところ、事実1.①③などにより、Xは、本件財団の資産及びその収入を享受する権利を独占的に有しており、しかも、Xのこの地位は、本件財団の実質的な設立者として、Xが承認した草案に基づいて設立された本件財団定款等によって得られたものと認められる。
よって、Xは、本件財団の資本金の全額を拠出するなどして本件財団を実質的に設立したことにより、本件財団の自益権と同視できる権利ないし地位を全部保有していたものと認められる。
3) 共益権と同視できる権利ないし地位の有無
事実1.①④⑤などにより、Xは本件財団の特別組織の唯一の構成員として、本件財団の資産の管理について、単独で責任を負い、制約を受けることなく裁量で行なうことができる地位を有しており、また、本件財団の管理運営を行う財団評議会を指導する地位を有している。しかも、Xのこの地位や権利は、本件財団の実質的な設立者として、Xが承認した草案に基づいて設立された本件財団定款等によって得られたものと認められる。
よって、Xは、本件財団の資本金の全額を拠出するなどして本件財団を実質的に設立したことにより、本件財団の共益権と同視できる権利ないし地位を全部保有していたものと認められる。
4. 結論
以上より、Xは本件財団の実質的な設立者として、本件財団の資本金を全額拠出したことなどにより、本件財団の自益権及び共益権と同視できる権利ないし地位を全部保有していたものと認められ、本件財団の発行済株式等の全部を有していたものと認められる。
解説
判旨は、Xが本件財団の株式等を有するか否かを判断するかにあたり、CFC税制の趣旨に照らし、実質的に判断すべきであり、Xが本件財団に資金拠出を行ったことにより、本件財団に対する自益権及び共益権又はこれらと同視できる地位を有しているか否かを判断基準としました。そして、本件財団定款等(以下では定款で代表させます)の文言(の和訳)に基づき、これらが認められるとして、Xが本件財団の株式等を有すると判断し、CFC税制の適用を是認したのです。
ここで1点注意すべきであるのは、実質的に判断すべきとしながらも、定款の文言を重視している点です。定款は法令そのものではないものの、法的効果を有する文書の一つ(他には契約書など)に過ぎないのであり、その文言は、必ずしもXと本件財団の関係の実質を示しているとは限らないはずです。Xが本件財団の自益権及び共益権又はこれらと同視できる地位を有しているか否かにつき、真に実質的に判断するのであれば、Xが本件財団の財産をどのように支配しているか、本件財団の運営にどのように関わっているのか、を具体的な事実から認定し、あてはめなければならないように思います。そういう点では、裁判所は、実質的に判断したというよりも、形式的な判断を維持しつつ判断の基礎を法令ではなく定款においた、と評価すべきように思われます。ただ、この場合、本件財団の根拠法の規定を措いてこのようなことが許されるのか、許されるとしたらどのような根拠によるのか、が問われるべきであると思われます。
お見逃しなく!
冒頭で引用した記事によると、この事件は控訴されているため、控訴審において引き続き争われることとなるでしょう。上記の判旨に対しては、一方で「地裁が示した事実認定、解釈は説得的だ。」と評価する見方もあれば、他方で「当時の税法の条文を厳密に解釈すると納税者側の主張にも一定の理はあるように思う。」という慎重な見方もあり[6]、控訴審でも、この判断が維持されるかが注目されるところです。
[1] 日本経済新聞「リヒテンシュタイン・バハマ舞台の節税、追徴課税は適法 東京地裁」2025年12月22日閲覧
[2] 本件当時の規定に基づく名称。本稿における条項や規定内容は本件当時のもの。
[3] Controlled Foreign Company税制の略。
[4] 判旨で認定されている、本件財団定款、本件財団付属定款、本件個人財団申請書、本件設立証書、本件財団規則、本件財団規則を、本稿では「本件財団定款等」と総称します。
[5] ドイツ語で、判示では財団資本金と訳されていますが、Xは訳し方自体についても争っています。
[6] 以上につき、前掲注1
税務・会計・監査・アドバイザリーに関わる最新のニュースをお届けします。