アーンアウト条項付き株式譲渡契約における調整金の税務実務と最新動向
ADVISORY INSIGHTS M&A税務M&Aで活用されるアーンアウト条項において、事後的に授受される調整金の税務上の取扱いは、売主(個人)の税引後手取額に重大な影響を与えます。本稿では、最新の国税不服審判所裁決(令和7年4月21日)を含む過去の重要事例を踏まえ、所得区分ごとに判断基準や実務上の留意点について整理し解説します。
2026/04/14 読了時間 3 分

近年、上場維持基準が厳格化しており、上場維持基準に抵触している、あるいは抵触しそうな企業の中には、上場廃止に追い込まれることを危惧し、自らMBOにて株式非公開化を行ったり、他社の買収に応じるケースも出てきています。
上場維持基準に抵触している企業のほとんどが時価総額関連の基準に抵触しており、多くの企業がM&Aによる成長戦略などを打ち出し、時価総額の増大を模索しています。そこで本稿では、時価総額の増大に繋がる株式対価(株式交換・株式交付)M&Aの活用方法や株式交換・株式交付の違いなどについて解説します。
2022年4月、東証証券取引所は、従来の一部・二部・マザーズ・JASDAQから、プライム・スタンダード・グロースに再編する市場区分の見直しを行い、上場維持基準について厳格化しました。その際、再編前から上場している企業については、経過措置が設けられましたが、その経過措置は2025年3月以後に到来する基準日から終了しており、現在では、全ての上場企業に正規の上場維持基準が適用されている状況です。上場維持基準が適合しない状態が続き、改善期間(通常1年。ただし売買高基準に関しては6か月)内に当該基準に適合しない場合には、監理銘柄・整理銘柄(原則として6か月)に指定後、上場廃止となるか、他市場への区分変更することとになります。
さらに、2025年には、東証グロース市場の上場維持基準における時価総額に関して、「上場10年経過後 時価総額40億円以上」から、「上場5年経過後 時価総額100億円以上」へと見直され、2030年3月1日以後最初に到来する事業年度の末日から適用されることになっています。これにより、現状の東証の各市場における上場維持基準は【表1】の通りとなっており、時価総額関連の基準でいうと、プライム市場では、流通株式時価総額100億円以上、スタンダード市場では、流通株式時価総額10億円以上といった、時価総額ではなく、流通株式での時価総額で上場維持基準が設けられており、さらに東証グロース市場においては流通時価総額基準もあり、その額は5億円以上となっています。この時価総額は市場株価に発行済株式総数を乗じて算出されるのに対して、流通株式時価総額は市場株価に発行済株式総数から役員や10%以上の大株主の所有株・自己株を除いた流通株式数を乗じて算出されるものです。
東京証券取引所では、上場維持基準に抵触し、改善期間に突入している企業を公表しており、2026年3月4日公表分では、107社が掲載され、この内、88社が流通株式時価総額又は時価総額基準に抵触している状況で、これらの多くの企業が改善計画書において、基準を充足するための施策として戦略的なM&Aの実施を打ち出しています。
出典:株式会社日本取引所グループ「上場維持基準」, 2026年3月11日取得
時価総額の増大に繋がるM&Aを考える場合、例えば、時価総額50億の上場企業が、株式価値30億の非上場企業を株式取得、すなわち現金対価で買収しても、時価総額が80億になるわけではなく、50億円のままです。もちろん、M&Aでのグループ規模の拡大やシナジー効果での利益向上やその期待が高まることで、株価が上昇し、時価総額が上昇する可能性はあるものの、直接的ではなく、即効性があるとも限りません。
一方で、現金対価ではなく、株式交換で買収した場合は、先ほどの例で言うと、30億円分の新株発行により、時価総額がすぐに80億になります。
しかしながら、株式交換の場合、税制上の制約があって、税制適格株式交換にならないと、余計な税金のキャッシュアウトが生じる可能性があり、その適格要件が厳しく、先に現金対価で50%超の子会社にしてから、残りを株式交換で100%子会社化するといった税制適格要件を満たすためと思われるケースが多くみられます(当然ながら、税制適格にするためだけではなく、売り手側の都合や買い手側が株主総会決議の不要となる簡易株式交換としたい等の目的の場合も含まれると思われます。)。この場合は、新株発行する株数が少なくなるので、時価総額を増大させる効果は少なくなってしまいます。
ここで登場するのが、株式交付という制度です。こちらも、株式交換と同じように自社の株式を対価として、他社を子会社化する制度ですが、株式交換と違って、必ずしも100%子会社にする必要はなく、子会社にすればいいという制度で、これを使って、100%子会社化することもできます。そして、何より、株式交換に比べて、税制上の制約が緩くなっています。株式交付は、株式交換と同様、会社法上の組織再編行為と位置付けられているものの、株式交換と違って、法人税法上の組織再編税制には組み込まれておらず、単に、株式交付の対価の80%以上が親会社株式であれば、株式対価部分は課税が繰延になると規定されているのみで、子会社側での時価評価に関する規定等も存在しません。
株式交付は、2021年に創設された比較的新しい制度で、当初は、非上場の同族会社の相続対策、すなわち資産管理会社を創設するためのストラクチャーとして、多く活用されたこともあって、2023年の税制改正により、同族会社での税制優遇措置は封じられてしまいましたが、同族会社に該当しない上場企業による利用は今でも期待できます。ただ、株式交付の場合、どんなケースでも活用できるわけではなく、例えば、株式の過半数を既に自社が保有している場合は、対象外となっていますし、また、子会社化する株主と個別同意を取って過半数を確保しなければならず、同意を得られない株主から強制的に取得することはできない等の制約もあります(株式交換と株式交付の主な違いについては【表2】を参照)。
株式交換と株式交付は、自社の株式を対価として他社をM&A(子会社化)するという、よく似た制度ではありますが、多くの点で異なっていますので、ケースバイケースで、うまく使い分けて、M&Aの際のストラクチャーを構築する必要があります。
株式交換・株式交付のような株式対価のM&Aの実施に際しては、現金対価のM&Aと比べて、発行済株式総数が増えることから、既存株主の希薄化の問題が生じますし、さらに余剰資金の有効活用の観点(ROEの向上など)からも、比較検討を行う必要があることにも注意が必要です。
M&Aで活用されるアーンアウト条項において、事後的に授受される調整金の税務上の取扱いは、売主(個人)の税引後手取額に重大な影響を与えます。本稿では、最新の国税不服審判所裁決(令和7年4月21日)を含む過去の重要事例を踏まえ、所得区分ごとに判断基準や実務上の留意点について整理し解説します。
2025年に導入されたばかりのミニマムタックスは、導入からわずか3年後の2027年に制度強化が予定されており、これまで「超」富裕層を主な対象としていた規定が、より広い富裕層にも適用される見込みです。これにより、M&Aに伴う自社株式の売却を予定しているオーナーにとって、大きな影響が生じるケースも想定されます。また、ミニマムタックスの影響を踏まえると、株式譲渡対価の代わりにオーナーへ役員退職金を支給する、いわゆる退職金スキームの優位性が、従来以上に高まっています。本稿では、ミニマムタックスを考慮したオーナー企業M&Aにおける役員退職金支給の活用方法について解説します。
グループ再編やM&Aにおいて、注意すべきリスクの一つが「間接譲渡課税」です。株式譲渡や組織再編成により移転の対象となる法人が一定の地域や条件に該当する場合、当該法人の所在地国外での株式譲渡であっても、株式譲渡益に対して譲渡された株式の発行法人が支配する法人の所在地国で課税となるケースがあります(間接譲渡課税)。本稿では、間接譲渡課税の仕組みと日本企業が多く進出するアジア圏において主に留意すべき国における制度概要について解説します。