article banner
インド・ジャパン・ニュースレター

GST導入から1年が経過

2017年7月1日にGSTが導入されて1年が経過しました。歴史的な税制大改革でしたが、経済 活動全体としては大きな混乱は見られず、比較的スムーズな導入だったと言えると思います。ただし、税務実務としては申告手続に混乱が見られ、税率改訂や通達による運用上の 変更が度重なるなど、課題も多くありました。今回は、GST導入後1年間に見られた規定変 更や運用上の課題、今後の留意点について、振り返りたいと思います。

 

1.主な規定の変更  

  • GST 法の規定する 3 段階月次申告(売上サプライ申告 GSTR-1、仕入サプライ申告 GSTR-2、月次納税申告 GSTR-3)の運用を延期し、GSTR-1 と簡易版月次納税申告 GSTR-3B による暫定的月次申告の運用。
  •  8 月 4 日の GST 評議会では、サプライヤーによるインボイス情報の随時アップロード、 アップロードされたインボイス情報に基づく ITC(インプット・タックス・クレジット) の確保、一本化された月次申告書に基づく納税、という新たな ITC と申告・納税の手続 (Upload-Lock-Pay Model)への移行を提示。移行時期は未定。
  • 輸出について、Letter of Undertaking(LUT)による IGST 課税回避の要件を緩和。
  • 物品サプライに関する前払いへの GST を免除。 
  • E-Way Bill の運用開始(州内取引は 4 月 1 日から、州際取引は 4 月 15 日から開始)。 
  •  GST 非登録者から GST 登録者へのサプライに関するリバースチャージの適用延期。こ のような物品サプライへのリバースチャージの適用は、特定物品、特定区分の GST 登 録者の場合に限定される見込み。

   

2.GSTの課題

  •  還付手続が滞っており、企業の運転資金がブロックされてしまっている。
  • 自社の GST 登録がない州で支払った CGST、SGST については、ITC が認められずコス トとなってしまう。(例えば、デリー準州でのみ GST 登録がある会社で、カルナタカ州・バンガロールに出張しホテルに宿泊した場合、ホテル宿泊サービスのサプライ場所 はホテル所在地のため宿泊費に対してはカルナタカ州でCGSTとSGSTが課せられるが、 自社の GST 登録がカルナタカ州にないため、カルナタカ州の支払 CGST・SGST につい ては自社のデリーでの GST 登録で ITC が認められずコストとなってしまう。)
  • ロット単位での物品を納入の場合、物品納入ごとにインボイスを受け取り、GST を支払 うが、最終ロットの納入まで支払い GST に対する ITC が認められないため、キャッシ ュアウトが先行することがある。 
  • 不動産建設に係る Works Contract や不動産の自家建設に関する支払い GST は ITC が認 められない。例えば、工場建屋などの不動産に関する支払い GST は ITC が認められず コストとなってしまう。ただし、Plant and Machinery(GST 課税品製造のための機械設 備・装置などで建屋の土台・構造物に接しているものをいう。土地・建物・土木建築物、 電信塔、工場外のパイプラインは含まない。)に該当するものは、ITC が認められる。
  •  異なる州の拠点間社内取引も GST 課税対象となるが、そのサプライ評価額(公開市場 価格)をどのように決定するのか。例えば、工場 A から他州自社倉庫 B への在庫移動 の場合、B において支払 GST の全額が制約なく ITC として認められる場合には(どん な金額でも)インボイスに記載された額が公開市場価格とみなされるため、問題はない。 しかし、B において ITC の制約がある場合(例えば、GST 免税品と課税品の両方を扱っ ているような場合)は、移動在庫の公開市場価格を把握し、それをサプライ評価額としなければならない。社内サービスのサプライ評価の方が、物品取引に比べて課題が大き いと思われる。

 
3.今後の留意点 

  • 旧税制からの引継ぎクレジットは当局による調査対象となる可能性が大きい。クレジッ ト引継ぎの要件を満たさない金額を GST の ITC として利用した(仕入控除した)場合、 引継ぎクレジットが否認され、同時に ITC の利用も否認されて GST の追徴などの可能 性もある。
  • 2017-18 年度の ITC 申告期限が 9 月末であるため、申告が漏れている ITC は 9 月末まで に処理しなければならない。 
  • 12 月末までに 2017-18 年度の GST 年度申告が必要。申告内容は未確定だが、監査済み 財務諸表と GST 申告金額との調整表の作成などが求められる見込み。(本稿執筆時点 で公開されているドラフト様式は 80 ページほどの分量である。)
  • 年間売上 2 千万ルピー以上の場合には、GST 年度申告に関して勅許会計士等による証明 書の入手が必要(GST 監査)。
  •  Anti-Profiteering の 所 管 機 関 と し て National Anti-Profiteering Authority が発足。 Anti-Profiteering 規定に基づく通達と違反額に関する支払い(基金への拠出)事例が発生。 GST 導入による ITC 許容範囲の拡大や税率軽減による恩恵を、価格引き下げの形で消費 者に還元しているかどうかが問われる。ただし、規定適用のガイドラインなどはなく、 規定の運用が明確といえない。 
  • Authorities for Advance Rulings(AAR)による事前裁定が出るも、州によって AAR の裁 定内容に整合性がない事例が発生 

 

<執筆者情報>

花輪 大資(はなわ だいすけ) 公認会計士(日本)

2006 年太陽有限責任監査法人入所後、法定監査、IPO 支援業務、デューデリジェンス業務、国際関係業務等に従事。2013 8 月から2018 12 月まで、Grant Thornton India(グルガオン事務所)に出向しジャパンデスクを担当、在印日本企業やインドビジネスに関する日本本社のサポートを担当。雑誌等へのインドビジネス・コンプライアンスに関する情報の記事執筆、セミナー講師などの経験多数。

E-mailhanawa.daisuke@gtjapan.or.jp

 

< グラントソントン・インディア>

グラントソントン・インターナショナル加盟事務所。 監査・保証業務、税務業務、アドバイザリー業務のフルライン専門サービスを提供。 インド国内12都市13事務所、約3,000名の専門家を有する。

  

インド・ジャパン・ニュースレター バックナンバーはこちら

 

ジャパンデスク・ニュースレター バックナンバーはこちら