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グローバル・ミニマム課税におけるセーフ・ハーバー適用上の 留意点

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グローバル・ミニマム課税制度のうち、令和5年度税制改正により法制化された所得合算ルール(IIR)が、令和6年4月1日以後に開始する対象会計年度より適用されています。特定多国籍企業グループ等に属する内国法人は、3月決算法人の適用初年度である令和7年3月期、また、12月決算法人の適用初年度である令和7年12月期においては、日本法令によるIIRとともに、海外子会社がその所在地国法令により適用される国内ミニマム課税(QDMTT)も併せて対応が必要となります。ただ、本制度における国別実効税率及び国際最低課税額の計算、また、各国又は地域における自国内最低課税額の計算は煩雑であるため、セーフ・ハーバーの適用によりこれらの計算が不要となる場合は、事務負担の大幅な軽減につながることから、特に適用初年度は、セーフ・ハーバーの適用にあたり慎重に検討し、適正な判断が求められます。適用初年度の申告・納付期限は、3月決算法人が令和8年9月末、12月決算法人が令和9年6月末となりますが、セーフ・ハーバーの適用に係る主な留意点について確認します。

移行期間CbCRセーフ・ハーバー

本特例は、令和6年4月1日から令和8年12月31日までの間に開始する対象会計年度(令和10年6月30日までに終了するものに限る。)において、①デミニマス要件、②簡素な実効税率要件、③通常利益要件のいずれかを満たす場合には、その対象会計年度のその構成会社等の所在地国におけるグループ国際最低課税額をゼロとみなす制度で、国又は地域ごとにその適用可否の判定を行います(令5改正法附則14①)。法人税法の経過措置として、3月決算法人は令和7年3月期から令和9年3月期のみ、また、12月決算法人は令和7年12月期から令和8年12月期のみ適用可能となりますが、適用にあたっては、使用する国別報告事項(CbCR)のデータ等に関して、以下の点に留意が必要です。

①  デミニマス要件

デミニマス要件

②  簡素な実効税率要件

簡素な実効税率要件

1   令和6年4月1日から同年12月31日までの間に開始する対象会計年度は15%、令和7年4月1日から同年12月31日までの間に開始する対象会計年度は16%とする。

③  通常利益要件

通常利益要件

1.   国別報告事項の適格性

  • 本特例の適用判定に使用する国別報告事項は、連結等財務諸表を基礎として作成されたものに限られます(令5改正法附則14①)。これは、構成会社等の財務諸表(一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って作成されたものに限る。)又は最終親会社等の連結パッケージのデータを用いて作成された国別報告事項とされ、内部管理会計のデータを用いて作成された国別報告事項を使用することはできません。ただし、重要性の原則により連結の範囲から除かれる会社等や恒久的施設等について財務諸表を使用できない場合には、内部管理会計データを用いて作成された国別報告事項を移行期間CbCRセーフ・ハーバーで用いることができます(令5改正法規附則3②二)。(Q16(1)[2])
  • 構成会社等の所在地国に他の構成会社等がある場合には、その対象会計年度に係る国別報告事項は、構成会社等の財務諸表データ又は最終親会社等の連結パッケージデータのいずれか同一の連結等財務諸表を基礎として作成されたものでなければなりません(令5改正法規附則3⑫)。なお、構成会社等の財務諸表データを用いる場合、同一の会計基準を適用していることまでは求められておらず、また、重要性の原則により連結の範囲から除かれる会社等及び恒久的施設等には例外的に適用されません。(Q16(1))
  • 構成会社等が恒久的施設等を有する場合、双方の所在地国での判定に二重に用いられることを防ぐため、その構成会社等に係る各要件の判定に用いる収入金額、調整後税引前当期利益の額、法人税等の額及び法人税等調整額等から、恒久的施設等に係る部分の金額を除きます。(Q16(2))

2.   情報申告書の提供

  • 特定多国籍企業グループ等報告事項等が提供され、移行期間CbCRセーフ・ハーバーの適用を受ける旨が記載されていることが要件となります(令5改正法附則14②一)。

3.   適用の継続性(“once out, always out”アプローチ)

  • 過去において移行期間CbCRセーフ・ハーバーの適用を受けていない対象会計年度がある場合には、その後、要件を満たす対象会計年度があったとしても、本特例の適用を受けることができません。これには、令和6年4月1日前に移行期間CbCRセーフ・ハーバーに相当する租税に関する法令の規定が施行されている日本以外の国又は地域において、その適用を受けていない対象会計年度がある場合も含まれます(令5改正法附則14②二)。(Q16(3))

4.   データの調整・追加収集

  • 簡素な実効税率要件において、分子の連結等財務諸表に記載された法人税等の額及び法人税等調整額から対象租税以外の租税の額、不確実性がある税務処理に係る法人税等の額及び法人税等調整額を除くこととされ、国別報告事項の納付税額及び発生税額との差異は調整が必要となります(令5改正法附則14①二イ、令5改正法規附則3⑤)。
  • 税引前当期利益の額は、国又は地域合計で5,000万ユーロを円換算した金額を超える時価評価損に係る金額(所有持分相当)がある場合はその金額を含まないため、時価評価損の情報が必要となります(令5改正法附則14①一ロ、令5改正法令附則4②)。
  • 通常利益要件では、実質ベース所得除外額を算定するために人件費や有形固定資産の額を集計する必要があります(令5改正法附則14①三)。
  • 共同支配会社等は、本特例の適用にあたり、同一の国又は地域に所在する構成会社等とはまとめずに、個別に適用判定を行うため、国別報告事項の作成において収集していない情報は、追加での収集が必要となります(令5改正法附則14③④)。

5.   その他

  • IIRにおける所在地国と国別報告事項における居住地国が異なる場合であっても、国別報告事項に記載された構成会社等の所在地国に係る収入金額等がいずれかの要件を満たす場合には、その所在地国において本特例の適用を受けることができます。(Q16(4))
  • 無国籍構成会社等など、対象外構成会社等は本特例の対象外となります。(令5改正法附則14①、令5改正法令附則4①)
  • デミニマス要件等の判定において、基準値のユーロから円への換算は、本制度を適用する対象会計年度開始の日の属する年の前年12月における欧州中央銀行によって公表された外国為替の売買相場の平均値[3]を用いて行います(令5改正法規附則3③)。

QDMTTセーフ・ハーバー

特定多国籍企業グループ等に属する構成会社等が日本以外の国又は地域において自国内最低課税額に係る税を課することとされている場合において、その自国内最低課税額に係る税が①QDMTT会計基準及び②整合性基準のいずれの要件も満たすときは、その対象会計年度のその構成会社等の所在地国に係るグループ国際最低課税額をゼロとする制度、いわゆるQDMTTセーフ・ハーバーが、令和6年度税制改正において措置されました(法法82の2⑥)。

①   QDMTT会計基準

自国内最低課税額に係る税に関する法令が、次のいずれかの要件を満たすものであること。

イ   最終親会社等の連結等財務諸表の財務会計基準により構成会社等の当期純損益金額を計算することとされていること。

ロ   構成会社等の所在地国において一般に公正妥当と認められる会計処理基準(所在地国等財務会計基準)により構成会社等の当期純損益金額を計算することとされていること(その所在地国の全ての構成会社等が所在地国等財務諸表を作成しており、その作成期間が最終親会社等の対象会計年度と同一である場合に限る)。

②   整合性基準

自国内最低課税額に係る税に関する法令が、常にGloBEルールに比して同等以上の税負担が生じると認められるものを除き、GloBEルールと同様に計算するものであること。例えば、自国内最低課税額の計算において、実質ベース所得除外額の規定が設けられていない又はGloBEルールより厳しい、収入金額等に関する適用免除基準の規定が設けられていない又はGloBEルールより厳しい、最低税率が15%超であるなどの乖離は、整合性基準を満たすこととされます。(Q15(1))

  • QDMTT会計基準及び整合性基準の要件は、OECDのガイダンスにおける「QDMTT Accounting Standard」及び「Consistency Standard」に対応するもので、これらを満たした自国内最低課税額に係る税を課することとされている国又は地域が、OECDホームページ[4]において公表されており、QDMTT会計基準及び整合性基準の要件の判定の際に参考となります。(Q15(2))
  • 適用要件のうちQDMTT会計基準において、所在地国等財務会計基準を基礎とする場合、所在地国等財務諸表の会計年度が最終親会社等の対象会計年度と同一であることが求められるため、構成会社等の会計年度が最終親会社等と異なる場合は、最終親会社等の連結等財務諸表の基礎となる構成会社等の損益計算書により自国内最低課税額を計算する必要があります。
  • 特定多国籍企業グループ等報告事項等が提供され、本適用免除基準の適用を受ける旨が記載されていることが要件となります(法法82の2➉)。
  • 本適用免除基準は、国又は地域ごとに判定されますが、その国又は地域の法令により、導管会社等に該当する場合や対象会計年度が国際的な事業活動の初期の段階における期間に該当する場合など、特定の形態の会社等に関して自国内最低課税額に係る税を課さない場合があります。その場合には、各対象会計年度のその構成会社等の所在地国に係るグループ国際最低課税額については、本特例は適用されないこととされています(法規38の43④)。(スイッチオフ・ルール)
  • 本特例において、共同支配会社等についても同様の取扱いとされます(法法82の2⑬)。

お見逃しなく!

上記セーフ・ハーバーとは別に、恒久的制度である適用免除基準(デミニマス除外)が設けられており、国又は地域ごとに、①収入金額要件(一定の収入の3年平均額が1,000万ユーロ未満)と②所得金額要件(一定の所得の3年平均額が100万ユーロ未満)のいずれも満たす場合に、特定多国籍企業グループ等報告事項等で本特例の適用を選択することにより、その国又は地域における当期国別国際最低課税額をゼロとします(法法82の2⑦➉)。なお、本適用免除基準は、年次での選択適用となり、共同支配会社等については、別途計算して判定します。

 

[2]「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税に関するQ&A(令和7年10月改訂)」-令和6年4月1日から令和7年3月31日までの間に開始する対象会計年度対応分-(国税庁 令和7年10月31日公表)

[3]  2023年12月:1ユーロ=157.21円

[4]  OECD, “Central Record of Legislation with Transitional Qualified Status”

 

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