タイ会計・税務ニュースレター

移転価格シリーズ第1部:潜在的な危険信号

小平 正 Tadashi Kodaira
執筆者:
小平 正 Tadashi Kodaira
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Contents

本稿は、2025年1月のGrant ThorntonタイNewsletterにてご紹介したものになります。

タイにおける移転価格税制の実務について、現状、影響をうける対象者などを記載しております。実務上の具体的な相談事項等につきましては、別途、Grant Thornton Thailandにご相談頂けますと幸いです。

※本稿は、Grant Thornton Thailand(グラントソントン・タイ)が作成したものを、和訳・編集したものです。原文(英語)をご参照ください。

 

はじめに

本税務ニュースの対象:

多国籍企業(MNE)グループに属し、関連当事者間取引(インターカンパニー取引)を行うタイ国に所在する企業。

 本税務ニュースでは、タイ歳入局(TRD)による移転価格(TP)調査を引き起こす可能性のある潜在的な危険信号、TRDが調査対象を選定する方法、企業がTPリスクを最小限に抑える方法について説明します。

1.  TRDはどのようにTP調査の危険信号を特定するのか?

TRDは、移転価格開示フォーム(TP Disclosure Form) を評価ツールとして活用し、TP調査の対象企業を選定します。

このフォームでは、企業がインターカンパニー取引の詳細(取引の性質や金額、事業再編など)を開示しなければなりません。

TP Disclosure Formを提出後、TRDは当該データを分析し、TP調査の可能性が高い危険信号を持つ企業を特定します。これは、企業が非関連当事者との取引を行う際に独立企業間価格の原則(Arm’s Length Principle) を遵守しているかを確認するためです。

2.  TP調査における潜在的な危険信号

TRDは、特に以下の点に注目しています。

1) 大規模な関係会社間取引:

関連当事者との関係会社間取引量が大規模である場合、TRD の注意を引く可能性があります。TRD は、関係会社間取引を会社の年間営業収益または費用と比較する場合があります。

2)ビジネスモデルの変更または組織再編:

企業やグループ全体の事業モデルの変更や組織再編が行われた場合、特に企業や関連当事者が果たす機能、引き受けられるリスク、および使用される資産に影響を与える場合、TRDの調査対象となる可能性があります。

3) 財務パフォーマンス:

  • 継続的な営業赤字 や、業界平均を大幅に下回る利益率
  • 多額の繰越欠損金

4) 関連当事者への高額な支払い:

関連当事者に対してマネジメントフィー、ライセンス料、手数料、技術サービス料などを過剰に支払っている 場合、TRDは独立企業間価格の原則に準拠していないと判断し、法人税の損金算入を否認する可能性があります。

5) 価格設定や利益率の不整合:

  • 同一または類似の製品・サービスにおいて、関連当事者との取引と第三者との取引との間で価格や利益率に差異がある場合
  • BOI(タイ投資委員会)認可事業と非BOI認可事業の間、または税制優遇期間の前後で価格設定に不整合がある場合

6) タックスヘイブンへの支払い:

タックスヘイブンと見做される国への支払いを伴う取引は、利益移転の可能性を疑われてTRDの注意をひく可能性があります。

7) 書類の不備または未提出:

TP disclosure form やTP関連書類の未提出、または適切な根拠資料の欠如は、調査のきっかけとなります。適切な文書管理は、税務調査やTP調査において重要な防衛手段 となります。

3.  今後の展望: TP調査リスクの最小化

弊社はまもなく移転価格シリーズ第2部を発行する予定です。このシリーズでは、移転価格調査のリスクを最小限に抑えることに焦点を当て、第 1 シリーズで取り上げた潜在的な危険信号に関するガイドを提供します。税務調査・移転価格調査中の移転価格リスクに対処するための防衛的な立場に関する今後の洞察にご期待ください。

移転価格シリーズ第1部 : 潜在的な危険信号
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移転価格シリーズ第1部 : 潜在的な危険信号

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