日本公認会計士協会より、会長通牒平成23年第1号「東北地方太平洋沖地震による災害に関する監査対応について」が公表されました。2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による災害に関連し、現行の会計基準及び監査基準を踏まえた監査上の留意事項が監査人の立場から取りまとめられたものですが、企業における会計実務においても一定の参考になるものと考えられます。
(主な内容)
基本的な考え方
会計上の見積りについては、今回の災害発生の状況から判断し、それぞれの会計事象に係る会計基準が想定する事実確認や見積りの合理性要件と比較し、ある程度の概算による会計処理も合理的な見積りの範囲内にあると判断できる場合があると考えられる。なお、データ収集や会計上の見積りが困難な場合、そのような状況下での合理的な見積りを実施したうえで、データ収集等の制約に関する重要な事項を注記で適切に開示することが必要となる。
災害損失の範囲
たとえば、以下のものが該当すると考えられる。
- 固定資産やたな卸資産の滅失損失
- 災害により損壊した資産の点検費、撤去費用等
- 災害資産の原状回復に要する費用、価値の減少を防止するための費用等
- 災害による工場・店舗等の移転費用
- 災害による操業・営業休止期間中の固定費
- 被災した代理店、特約店等の取引先に対する見舞金、復旧支援費用
- 被災した従業員、役員等に対する見舞金、ホテルの宿泊代等の復旧支援費用
2011年3月11日以後終了年度における災害損失の会計処理等
1. 固定資産やたな卸資産に対する損害保険
固定資産やたな卸資産に対する損害保険に係る受取保険金の確定までに時間を要する場合、実務的な対応として、付保状況を注記において説明するケースが生じることが考えられる。
2. 災害による工場・店舗等の移転費用
移転方針は決定しているものの、決算日までに実行されておらず、かつ、金額的重要性が高いと見込まれる場合、注記において概要を説明することが考えられる。
3. 災害による操業・営業休止期間中の固定費
操業・営業休止期間中(電力会社が行う計画停電によるものを含む)で決算日までに発生した固定費は、原価性が認められない場合があると考えられる。
4. 表示
原則として特別損失に計上するが、金額的重要性を考慮し、経常的な費用として会計処理することを否定するものではない。
また、項目ごとにそれぞれの内容を示す適切な科目で表示するが、今回の災害に係る損失をまとめて計上することも考えられる。この場合、主要な項目については注記において説明することが考えられる。
2011年3月11日前終了年度における災害損失の取扱い
債権、たな卸資産、固定資産及び繰延税金資産等の評価に当たっては、決算日時点の状況を基礎として見積り、災害に係る影響は、その影響が重要な場合に、開示後発事象として注記することが原則的な取扱いになると考えられる。なお、財務諸表作成時に入手可能な情報が限られる場合、開示内容が概括的になることもやむを得ないと考えられる。
内部統制監査における取扱い
今回被災した拠点が経営者の評価範囲内にある場合で、災害により経営者の評価手続が実施できないときは、経営者は当該範囲を除外して財務報告に係る内部統制の評価結果を表明することができる。
なお、事業拠点が滅失してしまった場合は、期末日現在評価対象が存在しないため、評価対象外になると考えられる。
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