Aadhaar番号とPANカードの取得・税務申告について
インド・ジャパン・ニュースレター 2017年5月号
インドでは現在、国民マイナンバーであるAadhaar番号(アーダール:ヒンディー語で基礎の意)と、納税者番号であるPAN(Permanent Account Number)のリンク付けが進められている。昨年11月の高額紙幣の廃貨措置(Demonetization) 以降、インド政府はブラックマネーの撲滅を目的とした対応策を次々に発表しているが、今年度の連邦予算案の中では、PANの取得と所得税申告にAadhaar番号の申告を必要とする所得税法の改正が提案されており、2017年財政法において所得税法改正が成立している。
Aadhaar番号は、2016年3月に成立したAadhaar Act 2016の下に、インド中央政府が全てのインド国民個人に発行する12桁の固有番号で、インド国内の取引について統一的かつ唯一の身分証明として、銀行等の金融機関や携帯電話会社なども利用できるものである。番号登録に際しては、文字の読み書きができない国民にも対応できるよう、指紋や虹彩といった生体認証情報も登録される。そのため、Aadhaarの取得には専用の事務所まで訪問し、指紋や虹彩の採取が必要である。Aadhaar番号は基本的にはインド国民に取得を義務付けた国民皆番号制度であるが、申請前に182日以上のインド滞在日数があれば、外国人でも取得できる。
一方、PANは個人・法人に付番される所得税の納税者管理番号で、PANの取得には、個人であれば、パスポート等の写真付きIDと住居の賃貸借契約や公共料金領収書などの住所証明が必要となっており、法人の際には、会社設立証明書(日本企業の場合には多くは会社登記簿謄本の英語訳にアポスティーユを取得したもの)が必要となっている。しかし、中には1個人・法人で複数のPANを保有し、それを使い分けることで納税を免れているケースもあるという。
そこで、生体認証情報も入った一個人に唯一のAadhaar番号とPANをリンクさせることで、PANの複数所有を防ぐと共に、Aadhaar番号経由で入手される個人の取引情報とPANにリンクする納税情報を照合することで、脱税・ブラックマネーを焙りだそうというインド政府の意図が読み取れる。しかし、我々外国人にとっては、Aadhaar番号の取得は義務ではない一方で、上述のようにPANの取得や所得税申告でのAadhaar番号の申告が義務化されれば、実質的にAadhaar番号の取得はインドで勤務する全ての外国人にとって義務となってしまう。生体認証情報も採取されることから、在印日本人社会では、プライバシーの流出や情報の悪用を懸念する声も聞かれた。インド最高裁判所からもPANとAadhaarのリンク付けを強制することについて政府に質問状が出されている。
2017年5月11日付けの官報により所得税法のルールが公表され、PAN取得と所得税申告時のAadharr番号の必要性について、①アッサム、ジャンム・カシミール、メガラヤの各州の居住者、②インド所得税法上の非居住者、③80歳以上の者、④インド市民ではない者、についてはAadhaar番号の申告の必要はないと明確化された。従って、インド市民権を持たない外国人については、PAN取得や所得税申告のためにAadhaar番号を取得しなければならないという状況は回避された。
インドではさまざまな規制の改変が絶え間なく行われる。発展途上国であればそのような改変は当然と思われる一方で、インドの場合は、なぜ必要なのかが大いに疑問である制度改変も少なくない。そして、今回のAadhaarの件のように、改正をぶち上げておいて、後から微調整して着地するというケースも本当に多い。今回は我々日本人にとっては歓迎すべき着地となったが、そうとはならない場合もある。インドでビジネスをする上では、こうした制度改変のアップデートを適切に理解し、コンプライアンスの遵守状況に十分留意したい。
< 執筆者情報>
花輪 大資(はなわ だいすけ) 公認会計士(日本)
2013 年、太陽有限責任監査法人よりグラントソントン・インディアに出向し、ジャパンデスクを担当。
E-mail:daisuke.hanawa@in.gt.com
< グラントソントン・インディア>
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