2018 年度インド連邦予算案の概要
インド・ジャパン・ニュースレター 2018年2月号
2018年度予算概要
2018 年度のインド連邦予算案が 2 月 1 日に発表されました。来年は下院総選挙の年であるため、暫定予算案の発表となります。そのため、現モディ政権下では、最後の本予算案発表でした。
経済調査結果として、2017-18年度の実質GDP成長率は6.75%であり、2018-19年度には7~7.5%程度に上昇すると見込まれています。予算配分としては、選挙を意識した農民向け 支援策、インフラ整備、農村地域振興が引き続き強調されている印象です。
今回は、予算案発表で示された主な税制改正のポイントについて解説します。なお、予算案発表の内容は、2018 年財政法の成立と関連法の改正・通達等により正式に発効する点、本文の意見にかかる部分は筆者の私見である点を申し添えます。
税制改正
2018 年度予算案での税制改正の発表内容は、小幅なものにとどまったといえます。大きな理由の1つとしては、昨年7月からGST (Goods and Services Tax) が導入されており、GST の税率や制度改正についての提案・検討は GST 評議会にその権限が移ったことから、インド政府としての間接税に関するアナウンスは関税のみとなったことが挙げられます。また、最近数年間で所得税関係でもグローバルな動きに合わせた税制改正を行ってきているため、大きな積み残しがなくなってきていることも理由と考えられます。
1. 直接税
法人所得税 法人所得税率を30%から25%まで漸次引き下げることは既に発表されており、これまでに新規設立の製造業企業に税率29%の適用、2015-16年度の売上高が5億ルピーまでの内国企業について税率 25%適用が実施されてきました。今回の予算案では、2016-17 年度の売上高が25億ルピーまでの全ての会社について税率を25%とすることが発表されました。これにより、ほとんどのインド企業が税率 25%を適用できるようになったと言われます。しかし、適用基準が 2016-17 年度の売上とされており、例えば「今後設立される新しい企業は25%を適用できるのか」など不明確な点も残されています。
また、これまで所得税について課されてきた 3%の教育目的税を 4%の健康教育目的税 (Health and Education Cess)に置き換えることが発表されました。
・みなし配当への配当分配税課税
株主や関連者へのローンやアドバンスに係るみなし配当について、これまでは受取側(株主や関連者)に課税されてきましたが、これが配当分配税として支払側(企業側)に30%が課税されることとなります。
・新規雇用への減税策
新規雇用の従業員が 240 日以上雇用された場合、その雇用コストの 30%の控除を 3 年間受けられるようになります。また、1年目の雇用期間が240日未満でも、2年目で240日以上 を達成すれば、2年目で控除を受けられます。
・ICDSと所得税法のギャップ解消
2016-17年度の法人所得税申告より、新しい所得税計算基準 ICDS(IncomeComputationand Disclosure Standard) が適用されていますが、この ICDS と所得税法の規定に不整合があることが指摘されており、裁判でも争われていました。そこで、所得税法の規定でICDSと不整合となっている部分は所得税法をICDSに合わせることが発表されました。主には、為替差損益、棚卸資産評価などです。しかし、ICDS に規定があって所得税法に規定がない場合の不整合については、依然解消されないままとなってしまいます。
・個人所得税
基本税率に変更はありませんでした。従来個人所得税にも課されてきた教育目的税3%については、法人所得税同様に健康教育目的税 4%に置き換わります。また、年 19,600 ルピーまでの通勤手当、年15,000ルピーまでの医療費会社負担額に対する免税措置が廃止となります。このような税負担の微増の一方、基礎控除が復活し、40,000 ルピーが適用されることとなりました。
2. 間接税
これまで、物品輸入に際して、関税等に対して3%の教育目的税が課されてきました(関税が 10%の時は、教育目的税 10%×3%=0.3%が追加されて合計 10.03%になります。)が、これを Social Welfare Surcharge (SWS) と名前を変えて、税率を関税等の 10%(同じく関税が 10%の時は合計 10.1%になります。)とすることが発表されました。従来教育目的 税が課税されていなかった物品については、SWSも課税されません。SWSはクレジットが認 められず、GST等他の間接税との仕入控除はできませんので、輸入コストとなります。
関税については、Make in India政策の促進のために、加工品に対する関税を引き上げている印象です。例えば、圧縮着火エンジンとそのパーツの関税は7.5%から15%に、CKD車両も10%から15%に引き上げられています。自動車の製造を一貫してインドで行うようにしたいという意図が見て取れます。
3. 移転価格
BEPS行動13にあわせた3つの移転価格文書の整備が2016-17年度分から導入されていますが、国別報告書のインドの申告期限は 11 月 30 日とされており、国際的な動向 (会計年度末から12ヶ月) と乖離しているため、インド国外親会社との申告情報のズレが出てしまうことが懸念されていました。今回、インドにおいても国別報告書の申告期限を会計年度末から12ヶ月とすることが発表され、国際的な動向と歩調を合わせることになりました。
<執筆者情報>
花輪 大資(はなわ だいすけ) 公認会計士(日本)
2006 年太陽有限責任監査法人入所後、法定監査、IPO 支援業務、デューデリジェンス業務、国際関係業務等に従事。2013 年8 月から2018 年12 月まで、Grant Thornton India(グルガオン事務所)に出向しジャパンデスクを担当、在印日本企業やインドビジネスに関する日本本社のサポートを担当。雑誌等へのインドビジネス・コンプライアンスに関する情報の記事執筆、セミナー講師などの経験多数。
E-mail:hanawa.daisuke@gtjapan.or.jp
< グラントソントン・インディア>
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