2017-18年度インド連邦予算案で発表された税制改正のポイント
インド・ジャパン・ニュースレター 2017年2月号
2月1日にインド財務大臣による2017-18年度連邦予算案の発表がありました。例年は 2月最終日に連邦予算の発表がありますが、今年度は約1か月前倒しでの予算案発表でした(GST導入を見込んで前倒したものと想像されますが、結果的にはGSTについて特に目立った言及はありませんでした)。財務大臣の予算案演説では、財政収支の報告、予算配分方針と税制改正が公表され、例年、インドビジネスにおける一大イベントとなっています。
2017-18年度の予算案では、低廉住宅供給に関するインセンティブ、インフラへの財政出動、キャッシュレス経済への誘導策、低所得層や農家への優遇策などがポイントとなりました。
本論では、予算発表で示された主な税制改正のポイントについて解説します。なお、予算発表の内容が正式に発効されるには今後個別の法改正・通達等が必要となる点、また、本文の意見にかかる部分は筆者の私見である点にご留意下さい。
1.直接税
法人所得税率を30%から25%まで漸次引き下げることは既に発表されており、昨年度はスタートアップ企業等への税率25%適用が発表されていました。今年度はさらに、2015-16年度の売上高が5億ルピーまでの内国法人について税率を30%から25%に引き下げることが発表されました。
現在25万ルピーから50万ルピーの個人所得については10%の税率が適用されていますが、これを5%に引き下げることが発表されました。これにより、最大で1万2500ルピーの減税となります。また、現在は1,000万ルピー超の所得に対してはサーチャージ15%が課せられていますが、500万ルピーから1,000万ルピーの所得についても新たに10%のサーチャージを課すことが発表されました。
インドでは配当実施法人に配当分配税が課され、受取配当への課税はありませんでしたが、昨年度の予算案で年間100万ルピー以上の配当を受け取るインド居住の個人、HUFs(Hindu Undivided Family)、Firmに対して10%が課税されることとなりました。
本年度の予算案では、この年間100万ルピー以上の受取配当への10%課税の対象が、内国法人と特別非営利基金・信託・機関を除くすべてのインド居住者に拡大されました。
主に不動産セクターへのインセンティブとして、キャピタルゲイン税の課税タイミングと適用税率についての改正が発表されました。
共同開発契約に基づく資産の移転の場合には、プロジェクトの完了年度でのキャピタルゲイン課税に課税が繰り延べられます。適用範囲は個人またはHUFsに限定されます。
また、不動産の譲渡の場合、現行は保有期間が36ヶ月以上の場合に長期キャピタルゲイン税(短期よりも低税率)が課されていますが、これを24ヶ月以上で長期とすることが発表されています。
現金による資本支出について、1日1万ルピーを越える現金での資本支出の損金計上は認められず、また、減価償却の際には1日1万ルピーを越える資本支出部分は減価償却計算の取得原価から控除されることとなります。
加えて、現金支出の1日の上限が現行の2万ルピーから1万ルピーに引き下げられます。また、1日あたりもしくは1つの関連した取引・イベントによる現金取引額は30万ルピーを超えてはならないとされました。もし、この30万ルピーを越える現金を受け取った場合には、受取側に受取額の100%のペナルティが課されます。
インドでは、インドに実質的価値のある資産を間接譲渡した際のキャピタルゲイン (例えば、インド法人株式を持つタイ法人の株式を売却した場合の売却益など)について、一定の条件下ではインドにおけるキャピタルゲイン税が課税されます。こうした間接譲渡について、FPI(Foreign Portfolio Investors)のCategory IもしくはCategory IIに該当するルートにより非居住者が保有している資産の譲渡の場合には、間接譲渡課税を適用しないことが発表されました。この規定は2011年4月1日に遡及して適用されます。
2.移転価格税制
現在、特定国内取引(インド国内での関連会社との取引や免税エリアにある会社との取引など)が年間2億ルピー以上の場合は、国際関連者取引同様の移転価格税制が適用されます。今年度の予算案では、特定国内取引から利益に関連しない支出を除外することが提案されています。これにより、特定国内取引に該当する取引が限定され、移転価格コンプライアンスの軽減に繋がると期待されます。
税務調査等で指摘された移転価格調整額(一次調整)を実際の利益に反映させるための調整を二次調整といいますが(通常、配当金、追加出資、ローンなどとみなして調整される)、この二次調整の考え方をインドにおける移転価格税制に導入することが発表されました。従って、移転価格調整を実際に会計帳簿に反映させることが今後必要となってきます。ただし、一次調整額が1,000万ルピー以下の場合や、一次調整が2015-16事業年度以前にされたものである場合は、二次調整の対象外とされています。
二次調整の考え方は既に世界的に採用されている一般的なものといえますが、実際の記帳に移転価格調整を反映させることには実務上の課題もあると考えられます。
3.間接税制
現在、複雑かつ複数存在する現行の間接税を1つのGST(Goods and Services Tax)に統合すべく導入準備が進んでいます。2017年4月1日の導入が政府目標でしたが、2017年1月の財務大臣の「2017年7月1日の導入が現実的」という発言により、同目標は事実上延期されました。大半の課題は中央政府と州政府の間で合意されているものの、導入時期は未だ確定的ではありません。
とはいえ、既にGSTの登録は始まっており、GSTの基本設計は明らかにされているため、各事業者は、現時点で入手可能な情報を基にGSTの導入準備・影響分析を進めていく必要があります。
サービス税率の変更はありません。
これまで技術的ノウハウを輸入した場合には研究開発税(Research & Development Cess)が課税されてきました(支払R&D Cessは受取サービス税から仕入控除可)が、2017年4月1日からこれを廃止することが発表されました。製造業者にとっては技術ノウハウの輸入に関する税コストの削減となります。
また、州政府公社などによる工業団地の長期賃貸にかかる前払金額についての既存のサービス税免税措置は、2007年7月1日から2016年9月20日までの期間に延長されることとなり、既に支払ったサービス税については還付となります。これは2017年財政法の施行により発効します。
遡及的改正として、土地移転等を含むWork Contract履行に係るサービス部分は、土地所有権の価値を控除して評価する、というサービス税上の評価基準の改正を2010年7月1日に遡って適用するとされました。建設コストの削減に繋がる改正といえます。本規定は2017年財政法の施行により発効します。
物品税率は、タバコ製品については上昇となりました。また、ソーラー強化ガラスなどの再生エネルギー製品は免税から6%に税率が変更されました。
事前審査(Advance Ruling)に関して、中央政府税については直接税・間接税を問わず、1961年所得税法に基づいて設立された事前審査機関が統合して対応することが発表されました。これは、事前審査の簡素化に繋がり、ビジネスにはプラスの改正といえます。同時に、事前審査料が2,500ルピーから10,000ルピーに増額されます。これらの規定は2017年財政法の施行により発効します。
< 執筆者情報>
花輪 大資(はなわ だいすけ) 公認会計士(日本)
2013 年、太陽有限責任監査法人よりグラントソントン・インディアに出向し、ジャパンデスクを担当。
E-mail:daisuke.hanawa@in.gt.com
< グラントソントン・インディア>
グラントソントン・インターナショナル加盟事務所。 監査・保証業務、税務業務、アドバイザリー業務のフルライン専門サービスを提供。 インド国内12都市13事務所、約3,000名の専門家を有する。